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その名前は間違えようもなく彼女のもので。
俺はこの瞬間に、ドア一枚隔てた向こう側に居るのは玖条光来の父親だろうと悟った。
「返事をしろ、光来。居るのはわかってるんだ」
そして、ドア一枚隔てた向こう側の男が、彼女の心の壁の原因だろうことも、悟ってしまった。
彼女を見るといかにも気まずそうな顔を俯かせ、さっき投げた筈の時計を両手で握り潰さんばかりに握りしめていた。
ガチャリと。
実際はそんなに形式通りの音ではないのだけれど。
その音が、その男の侵入を意味していた。
「何だ、お前は」
部屋の中で何をするでもなく座っていた俺を一目見るなり、見下した目で俺に問い掛けてきた。
こっちのセリフだオッサン。
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