第一章

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 ケーキとジュースを載せたトレイを手に、僕はようやく自室へと戻ってきた。  やれやれ、毎日毎日、同じ事の繰り返しだ。  とはいえ、決して慣れっこになったってわけじゃない。  後ろ手にドアを閉め、廊下にママの気配がしないことを息を詰めて確認してから、僕はようやく緊張の糸を緩めて肩の力を抜いた。  僕の部屋は六畳ほどの洋室で、家具は最低限しか置いていない。小学校に入学する時に買ってもらった12年使えるという触れ込みのシンプルな学習机にセットで買った本棚と一人用の小さな洋服ダンス、それにトールサイズのシングルベッド。  それで全部だ。  一見ごく普通の子供部屋。  けれど知らない人が見れば、この部屋の持ち主が男の子だということに、たぶん、少しは驚くんじゃないかな。 「ただいま、みんな」  本棚、タンスの上、そして壁際にもびっしりと、部屋のあらゆる空隙を埋めるようにすき間なく並べられた大小様々な人形やぬいぐるみ達にいつも通り挨拶の言葉を呟きながら、僕は持っていたトレイを机の上に置いて、ベッドにゆっくりと近づいた。  ベッドの上では僕の、誰よりも何よりも大切な、可愛いリカちゃんが目を閉じて静かに横たわっている。 「ただいま梨花ちゃん、お兄ちゃんだよ。寝ちゃってるの? それとも、寝てるふりしてるだけ?」  からかうように耳元で囁くと、梨花はスイッチが入ったみたいにぱちんと瞼を開け、僕と視線を合わせてにっこりと微笑んだ。
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