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「今日のおやつはイチゴのケーキだよ。梨花、これ好きだろ。良かったな」
僕は優しく話しかけながら梨花の体をベッドの上に抱き起こす。
背中にクッションをあてがい、梨花の表情を確かめながら少しずつ位置をずらしておさまりのいい角度をさがしてやると、何度目かのトライでベストポジションに落ち着いたらしい梨花が『これでいい』という合図にまたふわりと笑った。
「あ、そうだ。トイレはまだ大丈夫かい」
僕の質問に、梨花は心持ち頬を赤く染めながら小さく頷く。
年頃の女の子に僕だってこんなことを聞くのはかわいそうだという気もするけれど、梨花は自分一人でトイレに行けないのだから仕方がない。
自分の足で立てないだけじゃなく、梨花は両手もほとんど動かせない。それに生まれつき耳も良くないし、はっきりとした言葉を話すこともできなかった。
梨花は人形なんかじゃない。
僕の、たった一人の、誰よりも何よりも大切な妹だ。
――もうあの人はそんなこともわからなくなってしまったけれど。
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