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「凱様、そろそろお時間です」
「ああ」
お手伝いさんが桜田門君を呼びに来た。
すると、「じゃあ」とぶっきらぼうに言って、桜田門君は前の方へ歩き出した。
彼の挨拶は、常に上から目線で行われるようだ。
部屋全体にお線香の香りが立ち込め、お坊さんのお経の声が響き渡る。
シーンと静まり返るこの部屋に、すすり泣く声が響き、悲しみが重くのしかかってくる。
その中に、ちょっとど派手なお姉様集団がいた。
「女んとこで」と言った桜田門君の言葉を思い出す。
あれって、本当だったのかも。
彼女たちは、じいちゃんの遺影に向かって「亀ちゃーん」「亀ちゃーーーん」と号泣していた。
その姿に、また涙を誘われる。
前方の写真は、じいちゃんが笑っている顔だった。
生前よく見たあの笑顔。
私もこの笑顔が大好きだった。
でも、これからは見ることができない。
そう思うと悲しみがこみ上げてくる。
ふと、目を向けると、桜田門君が親族席に座っているのが見える。
あれだけ悪態をついていた彼も、今は悲しみの表情を見せている。
だって、孫なんだもん、悲しいに決まっている。
私も大人げなかったわね。
今ではそう反省している。
とりあえず、一時休戦ということで。
桜田門凱。
大好きなじいちゃんが亡くなったことで、こうして新たに出会うことになるなんて。
この時私は、彼に奇妙な縁を感じていた。
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