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「上田、これ着て」
…はい?
「なにそれ」
「見てわかるでしょ?」
中丸の手には…丁寧にクリーニングに出したばっかりなのか透明のカバーがかけられている真っ黒のスーツ。
ただのスーツじゃない。
あの、あれだ、こいつが好きなリクルートスーツ…女の子が着る、スカートのやつ。
「なにそれ、どうしたの?」
「妹のやつ、借りてきた」
「妹のを俺に着ろって言うの?」
うんと笑顔で笑うこいつは、変態に間違いない。
なんで俺がスカートなんか…リクルートスーツって、就活なんかしたことない俺は普通のスーツも着たこと無いのに…撮影でスーツは着たことあるけど…スカートって…
「俺も着るから」
「スカート!?」
「違う違う、俺が部長で上田は新入社員ね?」
「なにそれ、AVかよ」
AVでありそうな設定だな。
ラジオでムッツリスケベと認めたこいつだけど、俺の前ではムッツリどころか、ただの変態じゃん。
今のやり取り録音してラジオで流したい。
こいつのファンいなくなるんじゃね?
「上田、着てよー」
「やだよ」
「さっき願い叶えてくれるって言ったじゃん」
「あれは言葉のチョイスを間違えただけだ」
「うえだー」
日に日に、年々…変態になっていると思う、俺の恋人は何になりたいんだろ?
リクルートスーツを片手に頼んでくる中丸を無視して、こたつの布団を口元まで被った。
暖かいな、寝そう…
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