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タケルの目に狂いはなかった。 「お前、さっきから俺を気にしているな。」 ゆっくりと奴がタケルに近付いて来る。近付くに連れて、奴の血に塗れた(まみれた)腐臭がタケルの鼻をついてくるような気がした。……間違いない。 「ああ。……あんただろ?裏の格闘技大会のスカウトっていうのは。優勝すると、結構いい金になるんだってな。」 ニヤリとタケルは、笑ってみせる。ここで、少しだけ暗い目と体中の怒りを見せつけた。 それだけで、裏の世界に身を置いている奴は、タケルがただの意気がっているガキと違うことを理解したようだ。 口角を片側だけ吊り上げて、奴は顎をしゃくった。タケルの腕っぷしは見ている。着いて来い、という合図ならば合格というところか。 ――第一段階クリア。 タケルは、クチナワから指示されたように、裏の格闘技大会のスカウトに引っ掛かる事に成功した。 だが、指示はそれだけで終わりではない。 大会で優勝してこい。と言われている。そこから先の事は、主催者が警戒している為に探る事が出来なかったが、優勝した先から、例の犯罪にどう繋がっているのかを探り出し、最終的に――潰す事が目的だと指示を受けていた。 格闘技大会の場所も簡単には掴めなかったようで、上野の公園で夜にスカウトが来るということが、一番確実だったという。 タケルは、だが、あのクチナワの事だから、本当は大会の場所くらいは、把握しているだろうと思っていた。あの蛇男に、分からない事があるとは思えない。 多分、いきなり大会場所まで行っても参加出来ないのだろう。だから手っ取り早い近道として、スカウトという道を指示してきたのではないか、と思っていた。
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