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下りた先、廊下を歩いていくと扉があった。開かれた中には、リングがある。ただそれだけの部屋。観客席も見当たらない。だが、リング上では既に、殴り合いが始まっていた。
スカウトは、見向きもせずにリングを通り過ぎて奥の壁にあるドアを開ける。タケルも黙ってその中へ入り込んだ。
――いくらある?
タケルがそう思うのも無理はない程、現金が山積みされていた。軽く億くらいはありそうだ。
「アニキ。連れてきました。」
山積みの現金の向こうに、男が一人いた。チラリとタケルを見る。
「どんなもんだ?」
「いいセンいってますね。優勝するかどうかは、別ですが、手前くらいは残りますよ。」
「この前もそう言って、一回戦で火葬場送りになったよな。」
眉一つ動かさずアニキとやらは、言ってのけた。死んだと言っているわけだ。
「こ……今度は、平気ですって。」
スカウトが汗を掻きながらアニキにいう。フンと鼻を鳴らしてから、顎をしゃくった。
「ありがとうございます。アニキ!」
スカウトは頭を床につけそうな勢いで下げた。タケルは、審査が通ったらしいな、と考えた。
「来いよ。」
スカウトがタケルをドアから出す。控え室に入って、
「早速、やり合え!」と言ってきた。ルールは、クチナワから聞いていた通りだった。
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