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しばらく無言で街を歩き、騎士さんと俺はでっかくて丸い建物の前に着いた。どうやらここが目的地らしいが、裁判所臭がプンプンする。何というか、おどろおどろしい。
遊園地にあるお化け屋敷を思わせる容貌に、ドーム状に備え付けられた屋根。およそ合いそうにない二つがフュージョンして見事に恐怖を演出している。まあ、俺自身は遊園地とか行ったことないんですがね。
「ここで罪を確認するんだが、何か質問はあるか?」
「どうにかなりませんかねえ? 仕事熱心なのは分かりますけど、それで何の罪もない一般人に迷惑をかけたんじゃ、正義の味方失格ですよ」
「正義の味方でありたいとは思ってるが、実際はそうもいかないんでな」
騎士さんは遠い目をして、ほうと気の抜けるようなため息を溢した。わお、立派に黄昏てる。
「……街の人達を守るためには、他の街の人達を脅かさなければならない。そうなったら、俺はもう正義じゃない」
「……深くは知りませんが、あちらさんもそう思ってることでしょうね。受け売りの言葉で申し訳ないですが、『正義の反対は悪じゃない。……また違った、正義なんだ』という名言があります。初めて聞いた時は衝撃が走りましたよ」
「……辛い職業だな、全く」
嘆息しながら軽口を叩いて、騎士さんは建物に嵌め込まれた灰色の扉を三回ノックした。そして、すぐに老人の声が聞こえる。男性のようだったが、しわがれていて聴き取り辛い。
だがそれでも騎士さんには聞こえたようで、「失礼します」と一声かけると扉を開いて俺を中に押し込んだ。危ないよ。転ぶ、転ぶっての。
中に入ってみると、意外に厳粛な暗い部屋の中に大量の椅子が置かれてあった。なにこれ椅子だらけで気持ち悪い。辺りを見回すと、奥の方に人影が見えた。きっとあの人物がさっきゴニョゴニョ言ってた人だ。ごめん嘘ついた。実際は「ゴニョッ」ぐらいの声量。
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