生前のキオク

4/5
前へ
/15ページ
次へ
僕を笑ってる。 みんな嬉しそうに笑ってる。 「お前、こじ、ってやつなんだろ?」 運動も勉強もできるけんた君が、笑いながら聞いてきた。 それに合わせて、みんなも笑いかける。 「なー、どうなんだよ」 休み時間。教室の隅っこ。見た目は、楽しげに僕を囲んでる光景。 「言えよ、こじ」 けんた君が笑った。嫌な笑い方だった。 下品な笑い声が、教室で巻き起こる。子供の笑い声が、悪魔の声に聞こえた。 「気持ち悪いんだよ、お前。いっつも一人でさ、ぼーっとしてさ」 豊かに表情を変えながら話してたけんた君が、今はただ一つの醜い顔で、僕を睨んでいる。 みけんにしわを寄せて、威嚇するように睨んでる。 どうしてみんな笑うの? こじ、ってなんなの? どうして僕は、毎日殴られるの? お母さんに。けんた君たちに。 どうして? 「ばーか」 悪魔が囁いた。 「死ねよ」 悪魔らしい言葉。 「きしょいよ」 悪魔がいる。 「この、こじ野郎」 悪魔は、消していいよね? 「何見てんだよ」 バイバイ、悪魔さん。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加