パウロの手記⑯

3/4
前へ
/1000ページ
次へ
「……なんと言っていいか分かりません。すみません」 なぜだろう。 急に悲しくなってきた。 彼の死で失われた幸せが幾つあるだろうか。 目の前の大男が不意に涙を溢した。 最初は目頭に一筋だけだった滴が、やがて目尻からも。 手で拭っても、それが止まることはなかった。 「……俺はどうして生き残ったんだろうか、と……思うんです」 ブロは言葉を続けたが、涙は止まらない。 私はどうして良いか分からず、目を伏せる。 「……初めてレインやユイと会った時……気さくさを装っていたが……怖かった……恨まれると……思って……」 ……もしかして、彼は今も怖いのだろうか。 生き残った罪悪感 自分だけが幸せを手にする罪悪感 きっと、今後も彼は苦しみながら生きていくのかもしれない。 レイザがそんなことは望まない、などと在り来たりな慰めなど意味を為さない。 ふと、私は屋敷にある写真に目が向いた。 ブロの恋人であるギルアが、暗い建物の中で涙ぐみながら笑顔を向けている だが、写真の一部が白くなっている。 その形は、まるで人の形のように見えた。
/1000ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5111人が本棚に入れています
本棚に追加