4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ったく、遅ぇな……」
携帯の液晶が沈みかかった夕日を反射して、俺は思わず目を細めた。
時間を確認すると、もう30分は約束の時間を過ぎている。
しばらくして携帯に着信があった。
「先輩、すみません」
凛子が揚々と謝罪する。
おそらく、否、彼女は反省などしてはいない。
そんなことは天地がひっくり返ろうと有り得ないに決まっている。
「すぐ着きますから、楽にして待っていて下さい」
それだけ言ってから、反論の余地無く通話が切れる。
夕暮れと言えど季節は真夏日。
蝉の鳴き声けたましく、サウナのように蒸し暑いこの状況を、どうすれば楽にしていれるのだろうか。
そんなことを考えていると、およそ斜め下辺りに誰か居るのに気付く。
見ると、凛子の大きな瞳がこちらを捉えていた。
「きづかないなんて、注意力が散漫ですね」
「ああ。お前のせいで熱中症になったのかもしれない」
「それは大変。そんなことより、はやく行きましょう」
凛子は笑った拍子に、妙に尖った犬歯を覗かせた。
自慢じゃないが、俺は口論で凛子に勝った試しがない。
凛子は頭の回転の良いのを利用して、いつも周りの人間を言い負かせて好き放題やっているのである。
加えて天性と言うべき美貌を兼ね備えているので、大人でさえ彼女には手をこまねいているのだ。
それら要因が凛子を小悪魔、もとい悪女に仕立ててしまった原因だと俺は考えている。
最初のコメントを投稿しよう!