花火の下の文化部一同

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「やっぱり人が多いですね」 俺達は電車の密集した人の塊を、僅かな隙間を縫うように乗り込んだ。 吊革にすら捕まれない程に混んでいて、ただ突っ立っているだけでも一苦労である。 完全な満員電車だ。 もう少し早く出れば良かったと後悔する。 「もう少し早く出れば良かったのに」 「お前が言うな。 元はといえばお前が遅刻したせいで……って、近いって!」 彼女の人形のように良くできた顔が、俺の鼻先約10センチ辺りで傾げてみせる。 顔だけではなくて、その白くて細い腕や、小さくて華奢な胴体をぴったり俺の胸にくっつけているのだ。 「そんなこと言ったって満員電車だから仕方ないじゃないですか。 それに今日は浴衣だからバランスが取りにくいんです」 「浴衣を着てくる方がどうかしてるんだ。 遊びに行くんじゃないんだぞ」 「お祭りに行くのに浴衣が駄目なんて方がどうかしてます。 ……似合ってませんか?」
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