プロローグ

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「……上官殿はこの光景を目の当たりにしてなんとも思わないのですか?」 「フッ、なにを言うかと思えば。先も言ったろう。化物共がなぶり殺しにされるのは、胸が掬う気分だよ」 私は信ずるものの全てを粉々に砕かれた気分だった。帝国騎士とは強く、賢く、なにより気高い魂が帝国騎士たらしめるものであると信じていたからだ。 「そろそろ離したまえ、イーグル中尉。けしからん冗談を部下に噂されれば堪らん」 「貴方は……、いや!」 ニヤニヤと胸糞悪くなる冷笑を見た時、目の前の獣の顔が苦悶に歪む。そして何かがぷつりと頭の中で切れた。 「貴様は誇り高き帝国騎士などではないっ!!」 手の鈍痛に気付けば上官は吹っ飛んでおり、泡を吐きながら地面に倒れていた。殴った手の甲はパンパンに腫れ上がり、明らかに折れていた。 それでもこの現状を考えれば、少しは気が晴れた。 血反吐を垂らし、涙を枯らし、愛国心と忠誠心を胸に抱いた戦士だけが醜く死ねばいい。それが私の、そして戦士達のあるべき戦争だと思っていた。 敵であろうが、味方であろうが、その戦士が傷つけてよいものは同じ咎を背負った戦士だけであり、罪もない者達ではない。そこに人種、思想、性別、ありとあらゆるものを含み、そこに例外はない。
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