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「夢か……」
嫌な寝覚めだ。汗を少しかいた。
ふとかつんかつんと石畳を叩く靴の音が大きくなるのに気付く。
最後にかつん、と鳴った後に金属扉が鈍い軋みをあげながら開いた。
「囚人番号3216番クルケッサ・イーグル元中尉。出ろ」
「ふん、ようやくかい。でもってお出迎えがオッサンとはついてないな俺も」
「なら毎度むさっ苦しいオッサンの相手しなきゃならん俺達は不幸の女神に愛されてるな」
違いない、と返しベッドから立ち上がる。十年間、俺の人生の三分の一はこの薄汚れた灰色の壁の中だった。
別れのよしみにこつんと拳をぶつけてみる。冷たく、無機質で十年前と何も変わっていない。
「もっと入っとくか?」
「馬鹿言うな、別れの挨拶だ。ロマンチックだろ?」
「ふん、ガキか」
そう言って看守はシャラシャラと鍵を指で回しながら去って行った。
看守のその言葉が少し嬉しかった。俺はいつまでも子供のままだ。それでこそ俺だ。
牢屋を出て、看守の行った方向をゆっくりと追う。俺も出せと喚く受刑者が後を立たない。ここは比較的重刑を負った者が容れられるフロアだから仕方ないと言えば仕方ない。それにしても喧しい。
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