遭遇

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高ぶる気持ちを抑えるように、自分の「住み処」へと歩を進めるが、オフィスまでの僅か数分の距離がこんなに遠く、もどかしく思えるのは初めてだ。 煌びやかな高級ブティックや飲食店が立ち並ぶ骨董通りを真っすぐ進み、角にあるコンビニの手前で左に折れ曲がれば、もうすぐなのだが。 落ち着かない様子を悟られまい、と平静を装う一方で、終始落ち着きはらった様子で自分についてくる彼女が気になっていた。 緊張している素振りもない。 歩調も一定で、まるで機械のように桐谷の半歩後ろをキープしながら、近すぎず、かといって離れすぎずに隣で同調する動きが、視界の端に見え隠れすると、どうにも軽口のひとつも出てこない。 そうこうしている間に、コンビニが目前に迫ってきて、桐谷はわずかに息を吐いた。 通りの雑踏から抜け出すように、そこから細い路地に入っていくと幾分静かな空気が辺りを覆い、20メートルほど先の右手に構える、一階がアジアン・テイストの工芸品を取り扱う店舗が入っている雑居ビル、そこの3階がプロダクションの所在地だ。
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