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なにぶんにも70年代後半に建てられた、古めかしい鉄筋コンクリート造のビルであり、エントランスのセキュリティなど望むべくもない。
一応、管理人室こそ設けられてはいるが、有人管理とは名ばかりのグダグダ状態で、管理人を務めている初老の男は普段どこで何をしているのかよくわからない。
普段通り、やや動きの重い自動ドアを通過して建物の中に入る。
相変わらず彼女は落ち着いているようだ。
四角く刻まれたフロアタイルが無数に敷き詰められたエントランスを抜け、エレベーターの正面に着くと、すぐ横の壁面に組み込まれたテナント各社の表示パネルに目をやる。
3階の「ベレーザ」が桐谷のささやかな城だ。
意味はポルトガル語で「美しい女性」。
なんとなく語感が気に入って、決めた。
横にたたずむ彼女を見やると、同じく3階のネームプレートを確認していた。
興味深く覗き込む感じでもなく、不安げな様子を見せるわけでもなく、まるで最初からここに来ることを予期していたかのような、余裕すらうかがえる表情に桐谷は妙な胸騒ぎを覚えた。
ふと気が付くと、エレベーターを呼び出しているのに、なかなか来ない。
即座に操作パネルを確認すると、いつの間にか「休止」の表示が浮かび上がっている。
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