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定期点検日とは聞いていないし、予告の張り紙すら掲示されていない。
それどころか、つい数秒前まで動いていたはずだが・・・と腑に落ちないでいると、彼女の方から声がかかった。
「階段でも構いませんが?」
「なんだか、すみませんね、ここのグータラ管理人によく注意しときますよ」
先に申し出てくれたおかげで、幾分気が和らいだが、どうも彼女の術中にはまっていくような不思議な感覚が拭えないでいた。
先導するように、桐谷がエレベーター横右手の階段を上がっていくと、すぐ後ろで彼女の履いているブーツの音が小気味よく階段室に響く。
安物の合成底ではない、本革仕様のアウターソールがコンクリートの上から長尺シートを張っただけの、古びたステアーを叩くリズムに、自分が禁じ得ない胸騒ぎの元凶へのカウントダウンをなぜか重ねずにはいられなかった。
2階を通過して、階段の踊り場にさしかかった時、不審な人影を感じて桐谷は思わず息を飲み、身を硬くした。
3階の扉の前で、真上に設置されている寿命寸前の蛍光灯に、フラッシュのように照らされながら仁王立ちしている黒ずくめで長身の男がそこにいた。
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