降臨

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ただのB級アイドルヲタク。      それが彼にまつわる周囲の評価だった。 郊外のやや寂れた駅前商店街の一角にひっそりたたずむ、昔ながらの写真屋の一人息子として生まれた木下研児は、普段から交流のある人気SNSサイトでごく一部しか盛り上がっていない、あるグラビア嬢のコミュニティー仲間との情報交換を兼ねた飲み会に参加すべく、都内の繁華街に向けて足を運んでいた。 いわゆるオフ会、というやつだ。 高校野球好きな父親は、研児を一流のアスリートに育てたいと考えていたようだが、その願いもむなしく彼自身は小さい頃から運動全般がからっきしダメだった。 跳び箱では自分の腰あたりの高ささえもクリア出来ず、サッカーをやらせればパスを出そうにも球があさっての方向に飛んでいく有り様。 水深1メートルにも満たないところで溺れてしまい、救出に手を焼いた教師から、以降ずっとプールでは見学しているよう申し渡されてからは、スポーツ嫌いにますます拍車がかかった。 勉強のほうもパッとせず、なんとなく通った公立の商業高は毎日が退屈で、わずかに存在した、無名アイドルに萌えまくる同級生数人とささやかなサークル活動が唯一の愉しみとあっては卒業後の進路もおぼつかず、家業を継ぐ気もさらさら無い長男は、拘束時間のわりには休憩が多いという理由だけで交通量調査のバイトに明け暮れ、余暇と稼ぎをお気に入りの姫君に注ぎ込む毎日だった。
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