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声のトーンは低く重厚で、その風貌とよくマッチしている。
上下を黒で統一したシックなスーツがよく似合っていたし、短く刈り込まれていた頭髪と、かけている濃紺の眼鏡からは、うっすらとしか目許が確認できないが、隙のない精悍なイメージを損なわない。
ただ奇妙だったのが、首もとから無造作に下げられている赤系統のネクタイが、やけに「チャっちく」みえたことだ。
カーマイン色、とでもいうのか、やや薄紅るい感じのタイは素材の悪さも手伝って、おしゃれに精通しているとは言い難かった。
一見、裏の組織に籍を置いているタイプにも見えなくはないが、今どき業界に接触を試みようとする種族に、こんなわかりやすい格好で参上する者はまずいない。
まったく無表情と言ったらよいのか、生気すらあまり漂わないのがよけいに不気味さを際立たせて、桐谷は内に秘めた動揺を鎮めることができないでいた。
「ええ・・・桐谷ですが」
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