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ほんの少し、声がうわずってしまっていた。
「失礼ながら、お待ちしておりました。」
表情を変えずに、男が告げる。
―どういうことだ。こいつは、自分のことを知っているだけでなく、ここに戻ることをあらかじめ予測していたかのように待ち伏せしていたというのか。
いったい何者なのだ。
自身の中で渦を巻くように拡がっていた胸騒ぎが、制御不能の域に近づいたのか、桐谷は金縛りにあったかの如くその場から動けないでいた。
冷静に対処しようと心を落ち着かせ、自分を取り戻さんとあがいていると、ふと傍らの連れてきた子の存在に気づいて振り返る。
男を見つめていた。
作戦通りね、と言わんばかりの謀った顔で。
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