ダーティー・ヒロイン

戦慄

すべては計算ずくのことだったのか。

我を失いかけていた桐谷の、わずかに残っていたセルフ・コントロールから絞り出した状況分析が、辺りを取り巻く冷たい空気にかき消されそうになっていた。

「ちょっと・・・どういうことなのか、説明してほしいのだが」

額ににじむ汗を拭おうともせず、桐谷は毅然と言い放つ。

「失礼は承知で待たせていただきました。　今から私たちのことについて、きちんとご説明させていただきます」

眼前にそびえたつ黒い男は、無作法を詫びるかのように深く腰を折り、頭を垂れた。

予想だにしない展開に、胸中おだやかでなかった桐谷は、ほんの少しだけ安堵しつつも顔色に出すことを振り払う勢いで告げる。

「どうぞ、事務所の中へ」

先んじて鉄扉を開け、フロアに出ると正面に見える入り口のドアに鍵をねじ込み、２人を招き入れた。