降臨

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時計の針は午後5時を少し回ったあたり。 東京メトロの表参道駅の改札を抜けて地上に出ると、春の訪れが近いと思わせる夕暮れの淡いオレンジの光りが、交差点前にそびえるファッションビルを覆うように設計された、全面ガラス張りの外壁に映し出されているのを視界に収めると、研児はなんだか場違いな場所に迷い込んだような錯覚にとらわれた。 いつもなら、もっと俗物的な街の大衆居酒屋で、とりとめのないヲタ話にひとしきり花を咲かせ、気が済むまで語りあった後は適当に散らばって消える、というのがお決まりのパターンなのだが、今回に関しては幹事の発案で、恋焦がれる麗しの君がよく出没するとのツイッター情報を受けての大号令であった。 ―ずうずうしいかも知れないけど、あえたらいいな。 そんなほのかな期待を抱いて、メールに添付されていた新規オープンのアミューズメント型ホールの地図と、行き交う雑踏の頭越しに見え隠れするそれらしき看板を照らし合わせようとする。 何度も首を上下させているうちに鼻当てパッドの調整不足から、危うくずり落ちそうになったメガネのフレーム枠の片隅に捉えた映像は、およそ現世のものとは信じ難い彩りに満ちていた。
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