降臨

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「えっ・・・?」 落日の斜陽に照らされたそのシルエットは、フォトジェニックなどと使い古された表現とは次元の違うオーラが漂い、研児はおもわず声にならない声をつぶやいた。 もとより芸能人、業界人の類いが多く集う華やかでオシャレな街、との認識は当然のことながら持っていたが、そんな景色すらも色褪せてしまうほどの眩しさをまといながら、その女性は近づいてくる。 まるで澱んだ空気を切り裂くように。 すれちがいざまに見届けた顔立ちは、聖母のような微笑みをたたえ、大きく見開かれた瞳は生来のものなのか或いは、陽に反射しての融合色なのかエメラルドのような光りを発していた。 耳元から下顎にかけてのシャープなラインは彫り深いパーツをより鮮明に引き立て、黄金に輝く艶やかなロングヘアーを風になびかせている。 170に届こうかという長身は、それと見てイタリア製とわかる高級そうなスムースレザーのブーツが、ファーの付いたムートンコートの下から現われているのを推察するに、自分よりも背丈がありそうだ。 一瞬の出来事なのに、スローモーションのような映像が研児の瞼に焼きついたのも幻覚かと思わせた。だが、不思議だったのが周りの溢れかえらんばかりの通行人達が誰ひとり、彼女に対して無反応でやりすごしたことだった。
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