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茉代は駅前の広場に置かれたベンチに誰も座っていないことを確認する。
ベンチに座り、隣に缶コーヒーを置く。
じっと人混みを見つめ、目的の女性を探す。
一分足らずでそれは見つかった。
特徴的と言えば特徴的であった。
女性としては頭ひとつ抜き出た長身、青い長髪、白い肌、作り物染みた美しい顔。
だがそれ以上に目を引くものがある。
白い翼、頭の上の輪、西洋の鎧、腰に差した四本の剣。
それは人混みの中でも圧倒的な異彩を放っていた。
学校を破壊した張本人、天使の降臨である。
天使に対して、通りすがる人は何も反応を示さず、天使の周りから避けるように歩いている。
見えるどころか気付かれることさえない。
不可思議フィールド展開中だとプラカード掲げているようなものである。
茉代にあれが見えている理由は分からない。
だが、本人は不可思議に慣れすぎたからだと割り切った。
別段困るわけでもなく、むしろ見えなければ解決は出来なかった。
天使は茉代に気付かず、そのまま駅へと入っていく。
茉代も気付かれないよう、こっそりと後を付ける。
天使は駅内を進み、券売機に向かう。
何をするのかと思うが、どう考えても券を買うしか選択肢はない。
空想の存在であった天使が現代の文化に順応しているのには酷く違和感を感じる。
実にシュールだ。
天使が並んだ券売機はノーパンを待機させており、天使は少し待たされる。
そのうちに茉代は天使の後ろに近付き、缶コーヒーを天使の首にそっと当てると共に話し掛けた。
「こんにちわ」
一瞬で身を強張らせ、手は剣に添えられている。
「大人しくしていればお前にも周りにも危害は加えない。じっとしていろ」
首に当てられているのは缶コーヒーなのだが、アイスコーヒーのひんやり感と金属の感触しか分からない天使は、首に刃物でも突き付けられていると勘違いしている。
「これは何のつもりでしょうか」
初、天使の発声である。
姿に劣らぬ、作り物染みた清らかさを感じる声である。
茉代曰く、汚したくなる美しさ。
こんな主人公で大丈夫なのだろうか。
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