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自称妹は足の震えを止めようとするが無駄だった。
「ほら、大丈夫だから早く取ってこい」
茉代が自称妹を急かす。
あれはダメだ。
取ったら、死ぬ。
自称妹がきゅーんと鳴き、尻尾を丸めた。
そのとき、肩に肉球が置かれた。
それはケロ助の肉球だった。
ケロ助が口を開いた。
「主人を信じれず、主人の期待にも答えきれず。あなたは猫以下の存在になりたいのですか?あなたの飼い犬としての誇りはその程度ですか?」
犬語のままなので茉代には聞こえていない。
だが、今の自称妹には理解できた。
「わぉーん!」
自称妹が吠える。
「私は茉代家の飼い犬、他の何者でもない」
そう告げた。
ケロ助の肉球が自称妹から離れる。
「あのフリスビーを取れるのは、あなただけです」
ケロ助はそう言い、自称妹の背中を鼻で押す。
自称妹の目に光が戻り、だらしなく垂れていた尻尾は天を突く。
ケロ助の言葉を胸に自称妹は駆け出した。
まだ足が少し震えている。
だが、今の自称妹はフリスビーなど恐れていなかった。
怖くないと言えば嘘になるが、それ以上に、さっきまでの自分が恥ずかしかった。
そして悔しかった。
この自分の不甲斐なさへの怒りが、自称妹の足を震わせる。
フリスビーが公園を回り、こちらへ戻ってくる。
立ち止まり、来るべき衝撃に構える。
「わぉーん!」
二度目の咆哮。
もう自称妹の心に迷いはなかった。
火の粉を散らしながらフリスビーが自称妹を目掛けて飛んでくる。
自称妹が飛び上がり、フリスビーに噛みつこうとすると、火の粉が目に入った。
自称妹は痛みに思わず怯む。
勝負はその一瞬で決まった。
自称妹の口に、フリスビーはなかった。
そしてフリスビーは、煙を上げながら止まっていた。
茉代の手の中で。
「よし、遊んだし帰るぞー」
犬に再びリールを繋ぐ茉代。
自称妹は泣いていた。
あの勝負は負けだった。
茉代が止めなければ、間違いなく自称妹はフリスビーにやられていた。
押さえていた恐怖が一気に溢れかえり、涙が次から次へと落ちていく。
ケロ助も、今の自称妹には顔を舐める以外何も出来なかった。
帰り道の間も、自称妹の涙ときゅーんという鳴き声は止まなかった。
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