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大きな靴音をたてて入ってきたと思ったら、カウンターのスツールにドスン!と座ったこの男――勇次は、いつもこの調子で、人懐っこいと言うか、遠慮がないというか……。
そして、絵の具があちこちに着き、爪の中まで青くなった手をカウンターの中まで延ばし、恵介が磨き上げたグラスを掴む。
反対の手が水の入ったピッチャーに延びた瞬間、恵介が素早くピッチャーを持ち上げた。
「おっ、注いでくれるんだ」
「ばーか、その汚ねえ手で持って欲しくなかったんだよ。っつうかお前、その手で接客するつもるじゃねえだろうな」
勇次は売れないイラストレーター。店の二階の一部屋を提供するかわりに、この店のフロアを担当している。
「大丈夫!今回はアクリル絵の具だから、洗えばきれいになります!」
勇次はグラスに水を入れてもらうと、グッグッと喉を鳴らしながら飲み干して、「おかわり!」と恵介の前にグラスを突き出した。
「チッ」思わず舌打ちをする。
そんな恵介のことをニコニコしながら見ている勇次を、チロッと睨みながら水を注いだ。
その水を、勇次は半分ほど飲み、満足げにグラスを置いた。
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