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雪が降る。
二年前の雪の夜――。
勇次がここに住み込んですぐ、あかりはやって来た。
親しげに話す様子を見て、恵介はてっきり、二人は付き合っているかと思ったのだが、勇次から『幼なじみなんだよ』と紹介された。
赤いセーターが色白なあかりによく似合っていた。
決して華やかな顔立ちではなかったが、あかりが笑うと店の中が明るくなった。
しばらくして、突然あかりの顔が、曇る。
店の隅で物置になっていたピアノを見つけて、『ピアノがかわいそう……』と言った。
『かわいそう?』恵介が聞き返すと、あかりは愛おしそうにピアノの蓋の上で、手のひらを滑らせた。
『ピアノ、弾くのか?』
『恵ちゃん、こいつ、ジャズ弾くんだよ』勇次があかりの返事を待たずに言った。
へえ……。ジャズか。
『弾いても……いいぞ』
店には、馴染みの客二組だけだ。少し興味が湧いた恵介は、気がつけば思わずそう言っていた。
その言葉に、『ほんと?』と、あかりは嬉しそうに、ピアノの蓋を上げる。
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