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咲はうん、と後ろを振り返りそばに弥也の姿を確かめてから再び大通りの方へと目を向けた。
するとまもなく、きちっとした身なりの護衛数名を先頭に、芦成の一行が大通りをゆっくりとやってきた。
それと同じくして、大通りのそばの脇道や路地裏に隙間なくすし詰めになって芦成一行を待ち望む、町衆の騒がしさがやや止む。しかしその目は、期待か興味か、一行の方へ釘づけだ。
そしてその護衛数名が町衆の目の前を通り過ぎると、続いて、汚れやほつれ一つない綺麗な駕籠が現れる。
その漂う「気」の違いに、皆が思わず小声で、おお、と声を漏らす。
駕籠の周りを囲むようにして、目を鋭く光らせているのは側近である。その中でも特に目つきの鋭い、思わず息をのむほどのその目の人物に、咲は覚えず目が向いていた。
人混みの垣間から見えるものだからはっきりと見えているわけではなかったが、他の側近とは一段違う雰囲気に、咲は弥也とはぐれた焦燥を忘れて、すっかりのまれていたのだ。
しかし、そうして気をとられている間に気がゆるみ、咲は後ろの人波に押され、あっという間に人混みの一番前まで来てしまった。
そして慌てて身動きをとろうとしたとき、またも人波に押されて、咲はとうとう大通りへと倒れ込んだ。
「あっ……!」
さーっと、血の気が引いていくのを咲は感じた。背筋に寒気さえ感じる。
しかし起きあがるのを恐れて、倒れ込んだまま、静かに地の乾いた砂を手に握りしめる。
寒咲の倒れた目の前には丁度、芦成の駕籠の後ろに続いて歩く側近や護衛が歩いていたからだ。彼らに、一行の邪魔をしたと見なされれば、よもや命もないかもしれない。
腕に抱えていた花は咲の下敷きとなり、砂を被って、花弁もぽろりぽろりととれて地に散らばった。
顔を上げられない、と咲は瞳をぎゅっとつむる。だって今のは絶対気づかれたもの……。
弥也とはぐれて一人だというのもまた、咲の心を不安にさせる。
しかしそんな咲を、近くにいた人々がすぐに気付き、ざわざわと慌てて咲を人混みの中へ戻そうとする。
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