偶然の

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砂ぼこりが辺りを包んでいる。 周りの人々がその騒ぎに目を向け、一時(いっとき)、辺りは静かになった。 擦りむいてひりひりする手を握りしめながら、咲は倒れ込んだまま、恐る恐る護衛を見た。 すると、あることに気がつく。 咲が下敷きにしてしまっていくらかしおれてはいたものの、せっかく貰いものの花を、護衛の男が踏んでいたのだ。 いただいた花が……。 気づいていないだけなのか、気に留めていないだけなのか、いずれにせよ咲の心が痛む。もともと下にしてしまったのは私だ。 咲は惜しく思いながら、自身の中でそっと、何度か先生に謝った。 それと同じくして、覚えず、咲の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。悔しさや心細さ、恐怖などがこもった涙である。 潰れた花を見て、感極まったのかもしれない。 咲は体に力が入らなかった。 すると、異変に気づいた、先を歩いていた芦成の駕籠を囲む側近の内の、周りと一つ違う雰囲気を放つ男がひとり一行を離れ、つかつかと歩いてきた。そして、まだわずかに幼さの残る声を張る。咲がさっき気をとられていた人物である。 「冴次郎(さえじろう)、何をしておる」 咲の目の前に立ちはだかる護衛の男はその声に振り向いたが、咲にはその声の主を見る気力さえ余っていなかった。ただ、地を見つめるばかりである。 「はっ、この女が突然飛び出してきたもので」 一行を離れてきた男は、その護衛のそばまで来ると、倒れ込んだままの咲を一瞥した。 私はどうなるのだろう、と思いながら咲は再び目に溜まる涙をこらえる。視界がぼやけた。 「許してやれ、わざとではなかろう」 まさか、庇ってくれるのだろうか。てっきり、また叱られるのかと思っていた。私など、処罰されるのも当然だろうに。 咲はその危機一髪の有り難さに、耳を傾けた。 「されど、こやつは私に口答えまでしたのですよ!?それのわざとでないわけが……」 興奮した口調の護衛に対して、一行を離れてきた男は年不相応なほどに平然としている。その凛とした声が、護衛の言葉を遮って咲の耳に心地よく通る。 「私が良いと言っている。この女にさような力はない。不満なら、斬るか?」 妙な威圧感をもつ言葉に、護衛の男は口ごもる。 「いえ……」 「戻れ。二度と列を乱すな」 「…は、はっ!」
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