偶然の

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     *** 大通りに面する饅頭屋の座敷に座って、何やら難しい顔をした武士が三人ほど、言葉を交わしている。しかし、その姿に似合わず、皿の上にはいくつもの饅頭がのっている。 かたや、通路を挟んだ向かい側の座敷では、歳の三つほどの子供がはしゃぎながら饅頭を頬張る。傍らで母親が、ゆっくり食べなさい、喉につまらせますよ、と子をなだめている。 店先の縁台では、咲と弥也が隣り合って腰を下ろしていた。初めて訪れた店だ。 ずいぶん強くなった陽の光を、大きな唐傘が遮って陰をつくっている。 その日陰が心地よい。 「どうぞ」 店の中から出てきた、透き通るような白い肌の少女は、饅頭とお茶ののったお盆を二人の元へ置いた。 髷を結った髪は少し茶色く、しかし艶がある。瞳は、時折、無邪気な子供のような輝きを垣間見せる。 町娘とは何か違う、どこか柔和で気品のある雰囲気を放つその少女は、まるで芸者のような風情である。 それゆえか、歳も実際より幾分年上に見えるが、実際は咲や弥也と同じほどだ。 咲は会釈をしつつ、思わず少女を見つめていた。同じ女でもつい引きつけられる、そんな雰囲気があったのだ。 少女は愛想よく笑みを浮かべ、他の客の皿をさげてから、店の中へと戻る。 しかしそのとき、地面のちょっとしたくぼみにつまずいて、転んだ。 「あっ!」 その声に咲と弥也は振り向く。 店の入り口で座り込む、その少女がいた。 少女の持っていたお盆の上で、皿や空の湯のみが散らばる。 少女は慌てて皿などをお盆に積み直す。 何故こうなったのかを理解できた咲は、とっさに駆け寄ろうとするが、それより先に近くにいた中年の男が声をかけ、出鼻をくじかれる。 「大丈夫かい」
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