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大通りに面する饅頭屋の座敷に座って、何やら難しい顔をした武士が三人ほど、言葉を交わしている。しかし、その姿に似合わず、皿の上にはいくつもの饅頭がのっている。
かたや、通路を挟んだ向かい側の座敷では、歳の三つほどの子供がはしゃぎながら饅頭を頬張る。傍らで母親が、ゆっくり食べなさい、喉につまらせますよ、と子をなだめている。
店先の縁台では、咲と弥也が隣り合って腰を下ろしていた。初めて訪れた店だ。
ずいぶん強くなった陽の光を、大きな唐傘が遮って陰をつくっている。
その日陰が心地よい。
「どうぞ」
店の中から出てきた、透き通るような白い肌の少女は、饅頭とお茶ののったお盆を二人の元へ置いた。
髷を結った髪は少し茶色く、しかし艶がある。瞳は、時折、無邪気な子供のような輝きを垣間見せる。
町娘とは何か違う、どこか柔和で気品のある雰囲気を放つその少女は、まるで芸者のような風情である。
それゆえか、歳も実際より幾分年上に見えるが、実際は咲や弥也と同じほどだ。
咲は会釈をしつつ、思わず少女を見つめていた。同じ女でもつい引きつけられる、そんな雰囲気があったのだ。
少女は愛想よく笑みを浮かべ、他の客の皿をさげてから、店の中へと戻る。
しかしそのとき、地面のちょっとしたくぼみにつまずいて、転んだ。
「あっ!」
その声に咲と弥也は振り向く。
店の入り口で座り込む、その少女がいた。
少女の持っていたお盆の上で、皿や空の湯のみが散らばる。
少女は慌てて皿などをお盆に積み直す。
何故こうなったのかを理解できた咲は、とっさに駆け寄ろうとするが、それより先に近くにいた中年の男が声をかけ、出鼻をくじかれる。
「大丈夫かい」
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