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【てとて】
「あのさ、こういう時って、手ってつなぐべき?」
初めてのデートの帰り道、君の左側を歩く。
温かな春の日差しが、優しく私達を照らしてくれている気がする。
デートって言っても、ただ一緒に映画を見て、本屋さんを見ただけ。
お互い、両手に荷物は無い。
「うーん……。
つないでくれるんなら、まぁ。
あー、でもハズいし……」
「めんどくさいから、さっさとはっきりさせてよ」
「えー」
「えーじゃない!」
こういう会話をしていたら、ほんとに付き合ってるのか分からなくなってくるよ。
付き合う前までは、なんとなく、『付き合う』って、もっと高尚なものだと勘違いしていた。なぜだか分からないけど。
でも、いざ付き合うってことになって、それでも君は相変わらず君で、私は相変わらず私で、つまり『付き合う』って、別に高尚でもなんでもないんじゃないかって思って。
だいたい、私と君に、高尚というムツカシイ単語で表されるようなものを求めるのは、ハナから無駄な気がするけど。
それでも、私は、一応『女子』で。少しくらい夢を見たいわけで。
だから本音を言ってしまえば君と手をつな「……から」
ぽつりと呟くその声は、珍しく小さくて。
少し驚いて君の顔を見れば、さらに珍しいことに、真っ赤になっていて。
思わず立ち止まり、君の瞳を見つめる。
「……なに?」
「俺、今左手が寂しいからさ。
つないでくれてもいいかな、なんて」
「…………ばーか」
ちょっと笑って君の手をとると、その鼓動が私にも伝わってきた。
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