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【さらさら】
「ふぉへはぁ?」
誰かが教室の隅に飾った、大きな笹が夕日に染まるのを眺めながら、君は唐突にモゴモゴ言い始めた。
購買で買ってきたらしいコロッケパンのコロッケのパン粉が、君の頬にコントか何かのようについているのを見つけて、それを取ってあげようかどうしようかをかなり考えていたというのもあって、君の発言が私の頭の中に届くのに、だいぶ時間がかかってしまった。
「まず、口の中のものを飲み込もうか」
「……んっ」
素直に飲み込み、君は私を真剣に見つめる。
「で? なに?」
「俺さぁ、彦星じゃなくて良かった」
「なんで?」
「あれだろ? 七夕って、彦星が天の川を渡るんだろ?
交通費とかさ、ぜってーあり得ねーことになるだろ。
あいつ、かなり可哀想な奴だよ」
……そう、君はそういう奴だ。
なんというか、他の人が考えもしないことを真剣に、馬鹿みたいに真剣に考えて。
簡単に言ってしまえば、変人。
それが少し、ほんの少しでも可愛いと思ってしまう私は、だいぶ心を君色に染められているんだろう。
夕日に染められた、あの赤い笹のように。
「……交通費って、船か何かに乗るって?
フェリーとか? 空にそんなもんあるの?
ってかお金は何? 通貨は?」
「あ……」
「だいたい、君はそんなこと気にしなくて良いでしょ?
君の織姫はいつも隣にいるんだからさ」
「……そういう『甘い言葉』ってさ、普通男が言うんじゃねぇの?」
「え? なんか言った?」
「……いや。
お前は変人だって言っただけ」
「はぁ? 何で君に言われなきゃいけない訳!?」
「俺は変人じゃね「君が変人じゃなくて誰が変人なの!?」
そんな私たちを茶化すように笹がサラサラ揺れたような気がしたのは、私の勘違いだろうか。
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