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あなたの浮気現場を見たのは、一週間前。
あなたの隣にいる人は私ではなくて、その人に向けるあなたの笑顔は本当の笑顔で。
ただ、ああ、と思った。
その頃もデートしたり、お互いの家に遊びに行ったりはしていたけれど、何かが違った。
何かが、付き合い始めた頃と違った。
私は、冷めたんじゃなく、諦めた。
私では、あなたを幸せには出来ない。
私は、あなたに幸せになってもらいたい。
事実や自分の気持ちに気がついた時に、決めた。
別れようと。
お互い、携帯を持っているから、電話ででもメールででも、直接会ってでも、別れを切り出すことは出来た。
それでも、やっぱり別れるのは辛いから、こうやって、手紙であなたに伝えることにした。
手紙なら楽になれるというのは、私の思い込みでしかないけれど。
何回も何回も下書きをして、清書して、書き損じて、それに少し笑って、また清書して。
思っていること、伝えたいこと、全てこの封筒の中に入っているはずなのに、分厚いわりに思いの他軽くて、そんなものなのかなと笑ってしまった。
涙は、出てこない。
あぁ、ポストが見えてきた。
いつの間にか雨はどしゃ降りになっていて、ポストは遠くのほうに赤い輪郭がぼんやりと見える。
歩道の車道寄りの所にぽつんと置いてあるそれが近づくのを見ていると、どうしても、この封筒を持ったまま家に引き返したくなる。
あなたが浮気しているなんて、悪い夢なんじゃないか。
家に帰って携帯を見たら、『明日、遊びに行こう』とか、あなたからメールが来ているんじゃないか。
でも、濡らさないようにと無意識のうちに抱えていた封筒のカサリと乾いた音を聞くと、目が覚める。
違う、そんなこと、考えちゃダメだ。
うやむやが、一番いけない。
このままじゃ、お互いが傷つく。
辛いけれど、さすがに泣きそうになってきたけれど、終わらせよう。
ひとつ頷いてポストに駆け寄り、封筒を投函した。
カタンと、ポストが軽く笑った。
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