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あ、落ちる
と思った時には、落とされていた。
背中に、特に肩のあたりに、衝撃。薄い大きなベニヤ板で叩かれたような。じわりと痛い。
そのまま、身体が沈んでゆくのが分かる。
泳いで遊ぶのには冷た過ぎる水に全てを包まれ、直前まですぐ近くにあったはずの空気が遠くなってゆく。
光も、遠くなって。
*
「もう、やだ」
突き落とされる直前に聞いた言葉は、この水よりずっと冷たいものだった。
そんなふうに言われることを、というか、こんなことをされるようなことをした覚えは無い。
強いて言えば、最近『忙しい』という理由で、彼女に会っていなかったことだろうか。
今日は久々に休日だったし、会おうという誘いを断る理由が無かったし。
彼女の家に行った。
「3月の海を見ながら話したかったの」
崖の淵で、こちらを見ずに海を見て、嬉しそうにというよりむしろつまらなさそうに、「だからこんなとこまでつれて来たの」と、続けて呟く彼女。
その後は……、確か、「忙しかったんだね?」だったか。
「あぁ。
悪かった」
とは言った。
そう思っていたかは分からない。自分でも。
嫌いになった訳じゃないんだ。
ただ、少し疲れていただけで。
こう言っておけば良かったのか?
そういうものでもないのか?
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