―優奈―

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「せっかくだから、これも食べて行って」 と、有子さんが奥に引っ込み、しばらくしてタルトを持って来た。 マスターもうんうん頷いていて、私たちは至れり尽くせりの状態になってしまった。 こんなにしてもらって良いのだろうか。 と不安になっている私と亜利沙をよそに、実花は大喜びでそれらを受け取った。 「良いんですか?マスターさん」 遠慮がちに尋ねる私に、マスターも有子さんも思い切り頷いた。 「本当に、今日は余りそうだから良いの。それに君たちはうちの常連だしね」 「捨ててしまうより、美味しいと言って食べてもらった方が私も嬉しいからね」 そう、ニコニコ笑う二人。 これには私も亜利沙も、素直に感謝することにした。 「じゃあ遠慮なく頂きます」 「ぶっちゃけ、これはめちゃくちゃ嬉しいです」 すでに食べ始めている実花を横目に、私と亜利沙は笑った。 「ふふ。君たちにならいつでもサービスするから、ゆっくりしていって」 「はい、ありがとうございます!」 おっとり笑う有子さんやマスターに頭を下げ、私たちは目の前のフルーツタルトに釘付けになる。 早く食べないと、実花に全部取られてしまいそうだ。 「マスター、さすが良い腕してますね!」 とか言って、パクパク食べていく実花。 マスターは笑いながらカウンターの奥へと戻り、有子さんは私たちのカップに新しく紅茶を足して戻って行った。 本当に、至れり尽くせりだ。 「なんか今日は良い日だなぁ……」 しんみり呟いた私に、亜利沙が吹き出した。 「ちょっと優奈。おばあちゃんみたいなこと言わないで」 ハンカチで口元を覆いながら、亜利沙の脳内には、縁側に座って、熱いお茶を啜りながら『今日も良い日だねぇ』と呟くおばあちゃんが浮かんできたそうだ。 私は少し心外に思いながらも、確かにそうかもしれないとこっそり笑った。 12月と言う寒い季節。 外は灰色だし、慌ただしく行き交う人達ばかりで気分は沈みそうにもなるが。 『ほのぼの喫茶』の中はこんなにも暖かいし、何より友人二人が笑わせてくれる。 私はまた空を見上げて、遠く思いを馳せた。 彼らもまた、この空を見ているのだろうか……。 顔も名前もちゃんとした性別さえも知らない人達を思い、私はひそかにそう考えたのだった。  
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