4人が本棚に入れています
本棚に追加
「せっかくだから、これも食べて行って」
と、有子さんが奥に引っ込み、しばらくしてタルトを持って来た。
マスターもうんうん頷いていて、私たちは至れり尽くせりの状態になってしまった。
こんなにしてもらって良いのだろうか。
と不安になっている私と亜利沙をよそに、実花は大喜びでそれらを受け取った。
「良いんですか?マスターさん」
遠慮がちに尋ねる私に、マスターも有子さんも思い切り頷いた。
「本当に、今日は余りそうだから良いの。それに君たちはうちの常連だしね」
「捨ててしまうより、美味しいと言って食べてもらった方が私も嬉しいからね」
そう、ニコニコ笑う二人。
これには私も亜利沙も、素直に感謝することにした。
「じゃあ遠慮なく頂きます」
「ぶっちゃけ、これはめちゃくちゃ嬉しいです」
すでに食べ始めている実花を横目に、私と亜利沙は笑った。
「ふふ。君たちにならいつでもサービスするから、ゆっくりしていって」
「はい、ありがとうございます!」
おっとり笑う有子さんやマスターに頭を下げ、私たちは目の前のフルーツタルトに釘付けになる。
早く食べないと、実花に全部取られてしまいそうだ。
「マスター、さすが良い腕してますね!」
とか言って、パクパク食べていく実花。
マスターは笑いながらカウンターの奥へと戻り、有子さんは私たちのカップに新しく紅茶を足して戻って行った。
本当に、至れり尽くせりだ。
「なんか今日は良い日だなぁ……」
しんみり呟いた私に、亜利沙が吹き出した。
「ちょっと優奈。おばあちゃんみたいなこと言わないで」
ハンカチで口元を覆いながら、亜利沙の脳内には、縁側に座って、熱いお茶を啜りながら『今日も良い日だねぇ』と呟くおばあちゃんが浮かんできたそうだ。
私は少し心外に思いながらも、確かにそうかもしれないとこっそり笑った。
12月と言う寒い季節。
外は灰色だし、慌ただしく行き交う人達ばかりで気分は沈みそうにもなるが。
『ほのぼの喫茶』の中はこんなにも暖かいし、何より友人二人が笑わせてくれる。
私はまた空を見上げて、遠く思いを馳せた。
彼らもまた、この空を見ているのだろうか……。
顔も名前もちゃんとした性別さえも知らない人達を思い、私はひそかにそう考えたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!