4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ところで優奈」
タルトをゆっくり咀嚼(そしゃく)していた私に、ふいに亜利沙が声を掛けてきた。
改めて名を呼ばれたことを不思議に思いつつも、私はタルトを一気に飲み込み亜利沙を見やった。
「うん?」
目が合った亜利沙は至って普通の表情で、私はますます小首を傾げたくなる。
なんだろう?
実花も私と同じような反応をしていて、黙ってタルトを食べ続けていた。
もはやお皿のタルトは無くなる勢いだが。
そこで、しばらく私を観察するかのように黙っていた亜利沙がようやく口を開いた。
「前に深雪に教えてもらったっていうチャット。まだ通っているの?」
そう尋ねられ、私は一瞬ドキリとした。
今まさに考えていたものだ。
「え、うん。実はあれから毎日……」
およそ自分には似合わないだろうものだが、私はついこの前から、チャットというものにハマっている。
やはり意外に思ったのか、亜利沙は「へぇ、あんたがねぇ」と腕を組み、じっと私を眺めた。
「優奈、キー叩くの遅くなかった?」
なんて横やりを入れながら、実花はついに最後の一口を食べ終えた。
「うん、でもまぁ。慣れたらそれなりに早くなったよ」
実花に頷きながら、私は空になった皿を眺めた。
ああ、食べられた……。
「変かな」
亜利沙の反応に私は小首を傾げ、瞬きする。
亜利沙はそれに首を振って返して、肩をすくめた。
「いや?私は良い傾向だと思ってるよ」
どこか姉のような表情を浮かべ、亜利沙は小さく笑った。
実花もうんうん頷き、急にテーブルに身を乗り出した。
「で、面白い?どんな感じ?」
興味津々と言った顔で目を輝かせる実花。
私は若干眉をしかめ、それでもその質問に答えた。
「どう、って……別に普通だよ?」
他愛ない話をして、バカな話に盛り上がって、時には真面目な話をしたり。
意外と楽しんでいる。
「ん~と、そうじゃなくてさぁ~」
私の答えに不満を感じた実花は、ソファーにボスンと座り直し、つまらなそうに唇を尖らせた。
「ほら、好きになりそうな人とか居ないの?」
出た。
実花の恋愛話。
実花は恋だの愛だのの話が大好物だ。
「何それ。相手の顔も、本当の名前も知らないのに好きになるの?ないよ」
笑って手を振る私に、亜利沙が深く頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!