*prologue*

2/2
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「倉本ってさ、好きなやついる?」 いつもと同じお昼休み。 暑さも柔いで、涼しい風が気持ち良くふきわたる。 ジャングルジムの上で、 いつものふざけた表情じゃなく、 真剣な目付きで君は私に尋ねた。 「教えなーい!」 私はその視線をふいっと反らして 下を向きながら言った。 ‥素直に言えるわけないじゃん! だって、私が好きなのは、あなたなのに! 「えっ?いるん?誰なん?教えてや!」 君は下を向く私の顔を覗きこむように見ながら言った。 「無理だよ!絶対に教えない!」 「マジ、誰なん?ホンマに教えて!」 「やだっ!」 「なあ‥。 誰にも言わへんから。」 漆黒の瞳で私を見つめる君。 ‥‥っ!!! 「今、一緒にいる人だよっ!」 「えっ‥!?」 わざと名前をださずに焦らして答えた私は、 彼の答えも聞かずにジャングルジムを素早く降りて、 急いで教室に走っていった。 でも、私はその後、 父親の仕事の関係で、 半月も経たない内に、転校してしまった。 相手がちゃんと自分だと解っているのかもわからずに 初めての告白?は消えていった。 小学4年生のときの出来事だというのに、 まだはっきりと憶えている。 相手の男の子の詳しいところは、 忘れてしまったけれど。 顔は、ぼんやりと浮かび上がる。 甘いような、苦いような、 ビターチョコのような思い出。 たった1回しかしたことのない、 告白の思い出。 .
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!