2人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、なんということだっ!!
東宮が居られぬだとーっ!!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。
また源氏の姫君を追っかけていられるのでしょう」
「十和っ、なにを暢気なことを!東宮はあのような姫君なんぞを相手にしていては我が右大臣家はあの憎憎しい源氏に――」
憤りを隠せない叔父に、「十和」と呼ばれた20代前半の若者は余裕の顔で宥めていた。
余裕というより、とても楽しそうにも見える。
階(きざはし)へと足を踏み出し、春の暖かい陽だまりに若者――十和は柔らかい笑みを浮かべた。
「私は、馬で遠乗りでもしてきます」
「まさか、お前も行くなど言うまいな……?」
十和は問いかけには答えず、用意された愛馬の風見に乗る。
風見は茶色の馬で特には駿馬ではないのだが、十和とは小さな頃からの付き合いがあった。
つまりは心を通い合わせる馬なのだ。
だからこそ、十和が何処に行きたいかなど……以心伝心である。
「仕方ない、俺も仕事終わらせなきゃな」
楽しげに十和は笑うと、鞁を軽く引き――風見とともに駆けるのだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!