【海】

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夜。 漆黒に染まる海岸で、一組の親子が宝石を散りばめたような美しい夜空を見つめていた。 波の音が静かに聞こえる。 「海の中には何があるの?」 少女は言った。 子供とは時に、答えが一概に無い抽象的な問いをする。 「お魚さんがいるんだよ」 少女の父は優しく言った。 それは純粋な少女の純粋な疑問に対しては、十分な答えだった。 「お魚さん?お魚さんが住んでるの?」 「ああ、そうだよ」 「お魚さんは、お水の中で苦しくないの?」 「お魚さんは、お水が好きだから大丈夫なんだよ」 父は微笑み、魚を気遣う優しい娘を撫でた。 「じゃあ、お星さまはなにが好きなの?」 「闇」 彼はそう言いかけて、やめた。 純粋な娘には、あまりに酷な答えだと思ったのだった。 「お星さまも、お水が大好きだよ」 父はそう言うと、星空を見上げた。 星を包む混沌たる闇は、波打つ黒い海に似ていた。 いや、同じだった。 水の色は光の色。 光が無ければ闇に染まる。 彼は、自分の答えもあながち間違いではないのではないかと思った。 静かに波打つ漆黒の海。 その奥底には何があるのか。 光の届かぬ深海の中、自然すらも目を背ける無限の闇。 人知など到底及ばない神秘の世界。 その闇の更に奥。 そこに無数の小さな光の粒が浮いている場所がある。 そこが、宇宙なのだ。
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