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──そして、今度は焔 龍斗と敵として向き合った。
久々に見た彼は、井上が望むよりも理想的な青年になっていた。胸を締め付けるには十分なほど、かれは凛々しく、清らかだった。
だがそれは同時に、叶わない恋なのだ。井上は呼び止めようと叫んだが、焔は振り返らなかった。
彼は背負っているのだ。全てを。他人の幸せを手に入れるため、自分の命を投げ出すつもりなのだ。
それなら私にも、もう一度幸せをくれよ……。
そう願ってしまった。井上は、心の中でそう叫んだ。せめてもう一度、龍斗と話がしたい。それだけでいい。それだけで、井上は満足出来る。
それだけ、彼を愛していた。
ハリー「──井上」
ふと、ハリーに名前を呼ばれて我に帰った。病室の中では皆が井上を心配そうに見ていて、気づかぬ間に井上は泣いていたようだ。
井上「すいません」
ハリー「なんで謝るんだ?」
井上「私は、皆と共に戦える自信がありません」
ハリー「……焔か?」
井上「……私は、龍斗の事しか考えられない。多分、もうまともには戦えません」
ハリー「そうか……。わかった、なら無理をしなくていい。ただ、ひとつだけ聞いておく。
焔に会いたいか?」
井上「──はい」
ハリー「それなら戦うことだ。奴は戦場でしか会えない。もちろん会える保証はないが、会えば多分、お前も、アイツも、変わることが出来るはずだ。そしてこのチャンスは二度とこない。どうする?」
井上「私は……」
そこで黙り込んでしまう井上。沈黙する病室の中、ハリーは病室を出ていく。
ハリー「しばらく考えておけ」
……井上も、逃げるように病室から出ていった。
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