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「藍菜ちゃんって今歌手やってるんだろ?」
とうとう知樹がその話に触れた。
「ええ。まだ歌手と呼べるかどうかは別ですけどね。」
「そんなことないよ。すごく良い歌だった!なんか心の中に残るってゆーか…言葉に出来ないけど、不思議な気分になった。」
僕は本気でそう思っていた。
「サワちゃん、藍菜の曲に一目惚れしたんだって♪」
「ばっ!変なこと言うなよ!」
「ありがとう。そんなに誉められたの初めて。」
藍菜ちゃんは本当に嬉しそうに笑っていた。
「そういえば、この前藍菜ちゃんのお父さんに会ったよ。CDショップの店長してるんだろ?」
「はい…」
なんだか寂しそうな声で答えた。
「でもなんで?藍菜ちゃんの母親がこんなに稼いでたら父親は働かなくてもいいんじゃない?」
「私の両親は、去年離婚したんです。」
僕はしまった、と思った。
「あっ…ごめん…」
「いえ、気にしないで。父と会えないわけではないから。」
そう言ってはいるが、どこか寂しそうだ。
と、その時僕の携帯が鳴った。
メールだ。
「あっ!」
僕は思わず声をあげてしまった。
架空請求のサイトから返事がきたのだ。
「サワちゃん?」
真希が不思議そうに聞いてくる。
「あっ、いや、何でもない。…そうだ!トイレ!藍菜ちゃん、トイレどこ?」
「そこの廊下を左に行けばありますよ。」
「知樹、行くぞ!」
知樹はため息をつきながら立った。
「なんか怪しい…」
真希の視線を無視して僕たちは部屋を出た。
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