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「今日の依頼主は…」
私は月下に佇む西洋風な大きなお屋敷を見上げます。
「貴族の方のようですね。さて、依頼は何なのでしょうか…」
私は黒いローブを身に着けてフードを目深に被っています。端から見れば不審者のようです。
…まぁ、今の時間帯に通りを歩いている方は殆どいらっしゃらないので関係ないことですが。
お屋敷の周りを囲むように立っている石造りの塀。全てに装飾が細かくされているようでかなりお金がかかってます。
その門の所には鉄格子の巨大な両開きの扉が侵入者を拒むようにそそり立っています。
門の前には武装をした兵士が2人ほど立ち、怪しい者がいないか見張っているようです。
しかし、何故でしょうその2人の視線が先程から私に突き刺さっているように感じてしょうがないのですが…
…仕方ないですね。
「何かご用ですか?」
取り敢えず質問させていただきました。
「いやいやいや、お前の方が何用だよ。」
「…貴様、先程からずっとこの屋敷を見ていたな。その佇まいから見て訪問者でもあるまい。何の用だ?」
おや、槍を突きつけられてしまいました。
私の喉元で月光を受けて妖しく光る二本の槍。しかもこの槍は!?
「これは最新作の槍ですね?この微かに紫色の金属光沢は…グラジウム鋼の特徴。それにこの洗練された刃の僅かばかりの曲線。あなた方はとても良い槍をお持ちだ。」
私が槍をベタベタと触りながら告げると2人は呆気にとられたような顔になってしまいました。…面白い顔ですね。
「いや~、なんか俺のことを誉められているようでなんか嬉しいな。なぁ、お前もそう思うよな?」
どうやら1人の方は調子が良い性格のようですね。
「…それで?結局貴様は何者なんだ?」
片や、もう1人の兵士の方はしっかり者のようです。隣の方にいらない質問をされても完璧に無視でしたし。この方、私生活でもこの態度ならご友人はお一人もいらっしゃらないでしょうね。
「私ですか?私は運び屋です。ここのお屋敷の主の方がご依頼主のようなのですが…」
私がそう言うと無愛想な兵………しっかり者の兵士が何やらこめかみを手で押さえるような仕草をしました。
わかります。念話ですね。
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