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「おぉ!来てくれたか。お前が〝運び屋〟というやつだな?」
一際高価そうなスーツを着た男性が問いただします。どうやら家主のようですが…
「はい。報酬次第で何でも運ぶ、〝運び屋〟でございます。」
そう言いながらも目深に被ったフード付きのローブは脱ぎません。
「そうか。では早速お前に運んできて欲しいものがある。」
ん?そこで私はふと疑問に思いました。
「失礼ながら、〝運んで欲しい〟ものではなくて〝運んできて欲しい〟ものなのでしょうか?」
「そうだ。なんだ、運んでくるのは別料金なのか?それならそれで構わん。お金なら…」
「いえ、別に構いません。報酬の上乗せもいりません。ただ確認をしたかっただけですので。」
男性の言葉を遮るように喋ると使用人らしき方達の視線がベッドの上から移動してこちらに集中します。
「あなた!旦那様相手にそのような口の聞き方をしてただで済むと…」
ギギギギギッ…
そこまで使用人が言った時点で耳を衝くような不快な音が部屋に鳴り響く。
すぐ横にいる兵士の方が驚いたようにこちらを見ています。
発信源は……私の口です。所謂、歯軋りというやつですね。
家主の男性を含めた皆が驚いた表情を浮かべている中、私は話し始めます。
「私の運び屋としてのルールに『依頼主の命令は絶対』というものがあります。しかし、その他の方のことに対するルールは一つもありません。私が依頼主の方と話している間は話しに割り込んでくることは良い感じに私の機嫌を損ねます。………わかりますか?」
未だに呆気にとられている方々を無視して私は続けます。
「つまり、私と依頼主の方以外の方々は話しの間は空気となって何もこちらに干渉しないでいただきたいのです。お分かりいただけたでしょうか?」
「なっ!?あ、あなたという人は…!」
そこまででまた言葉を途切れさせていただきます。今度は行動を示して。
黒い革製の手袋をした手で人差し指を周りの方に見えるように自分の顔の前に立てます。
「一回です。あと一回でも話しかけたりした場合、この依頼はこちらが独断で無効と判断し、即刻帰らせていただきます。」
そこまで言った所で漸く周りが静かになりました。ふぅ、まったく。無駄に疲れますね。
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