運び屋

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「…それで、ご依頼というのはいかがなものなのでしょうか?」 すると我に返ったかのように家主の方が口を開きました。 「あ、あぁ、…見ての通り、妻が病にかかってしまってな。その病が…所謂、不治の病と言われているものでな。」 そう言って床に伏せっている奥様に目を向ける男性の瞳には悲しみが見てとれます。 …愛しておられるのですね。 「だが、最近この病の特効薬となり得る薬が発見されたのだが……」 そう言って口ごもる男性は酷く辛そうに見えます。 「…その薬の元となる素材が〝凶龍の牙〟なんだ。」 ほぅ…、〝凶龍〟ですか。龍族の中でも一、二を争う程の暴れん坊でしたね。 「ということは、ご依頼の方は凶龍の牙を持ち帰るということで宜しいでしょうか?」 私がそう言うと男性は本当に驚いたような顔をして聞いてきます。 「そ、そうなのだが、本当に可能なのかね。相手はあの凶龍だぞ?」 「フフフッ……可能か不可能かは関係ありません。あなたが命じて下されば私はすぐさま動きます。それが運び屋です。」 不適に笑う私を見て家主の方も覚悟をしたようです。 「わかった、依頼は凶龍の牙。報酬は」 「その話しは依頼が無事に終わってからと致しましょう。」 私が話しを遮ろうとも、もう誰も口答えはいたしません。……どうやら無能ではないようですね。 「うん?そうか。では頼んだぞ。」 私はそこにきて漸く跪き頭を垂れていつもの言葉を紡ぎます。 「了解しました。」 ここからは時間との勝負です。手早く行動するとしましょう。 スクッと立ち上がった私は部屋に存在している大きな窓に歩みより、開け放ちます。 外から流れ込んでくる多少冷え込んだ夜風が優しく頬を撫でる。…気持ちのよい夜です。 振り返って見ればまたもや呆気にとられたような表情をしている皆様方。 「では、一刻程の後にまた…」 まるで歌うように紡がれたその言葉はその部屋にいる全員の心に深く響いた。 少しの間呆けていた家主だったが、いつの間にか、運び屋が身を消していたことを視認すると我に返った。 「…あの者は先程、一刻の後と、そう言ったのか?」 有り得る筈がないとわかりつつも家主はそのまま一刻をまつのであった…………
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