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「パウッ!?」
我ながらおかしいと思える声で悲鳴をあげて後頭部を押さえつつうずくまる。
なんというか…この痛みは……痛いっ!
とにかく外傷的頭痛を抱えた俺は痛みの発生地を空気にさらさぬよう手の平で覆ってから恨むべき人物へと視線を突き刺した。
まあ声で最初から分かってたけどな。こいつに殴られる理由についてはまったく知らないが。
あ…やっぱ若干心当たりが……
「いってぇぇぇ!!…誰だよ!?……あ、誰ッスか?」
振り向いた先にあったのは黒いタイツに包まれた二本の綺麗で細い美脚。
上にそれをたどっていくと女子高生の証ともいえる赤と緑のチェックが入ったミニスカート。そして襟の大きな黒基調のブレザー。
「はあっ!?なによあんたっ!他人のフリなんかしてんじゃないわよ!!」
「いや俺はそんな廊下でいきなり後頭部を手提げカバンで殴るような乱暴な女性と知り合いではないッスから、はい」
殴られたのが癪だったのと、あまり人気の多い廊下でこの幼馴染みと大仰に絡みたくないという理由であえてここは敬語を使わせていただこう。
俺は立ち上がり制服を正して尻の埃を払ってからそいつに向き直る。
「なんですってぇ~!?あんたが今日…い、一緒に登校しようって言うから途中で待ってたのにぃ!!」
腰まである長髪に、二重に飾られた大きな瞳の上には斜めにビッと引っ張られたような眉が今現在のこいつの感情を如実に表していた。
そしてきゅっと一文字に結ばれた桃色の唇は強い意志を感じさせ、頬は怒りのためか赤く染まっている。
こいつ――平川奈々魅(ヒラカワナナミ)とは幼稚園以来の幼馴染みでとにかく何においても優秀だった。比べられる俺の身としては、かなり気にくわない所が満載なのだ。そして第一の比較理由としては頭の良さだ。
俺の出身小中学校での向上心のある成績上位者は卒業まで辛酸を舐めたことだろう。きっとここでもそうなるに違いないことは見え透いてるがな。
そう、つまり俺がこの名門私立高校の超高倍率に見事打ち勝てたのはこいつのお陰なのだ。どんな風に助けられたかは……まあ、後でとしよう。
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