えすぷれっそ

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 黒田 夢(くろだ ゆめ)。彼女は、誰が見てもとても美しく、儚く気高い女性である。ボランティア精神旺盛で。どんな人も平等に接する。まるで聖女。お日さまのような優しさと、確かな存在感。  普通はこんな子、逆に嫌いになると思う。嫉妬で気が狂うかも知れない。  でも、あたしはゆめをキライになんて絶対になれない。ゆめには貸しが何十も何百もある。小学の時も中学の時も、どんなにあの体型の事で嫌われて苛められても、ゆめが守ってくれた。庇って、盾になって、間違いと真剣に向き合って――あんな私なのに。ゆめは見捨ててくれなかった。  あの子は確かに人前では聖女で女神かも知れない。だけど、私にしか言わない本音を言う姿は時に悪魔の化身だ。相当な毒素を吐く。私もたまに口が悪いけど、ゆめに比べたら可愛いものだと思う。 「クッソおッ! 車にひかれてくッたばれコイツう!」 「ゆ、ゆめ。朝ご飯出来たよー」  このサラッサラで流れるような腰までのピンクブラウンの髪と、くりくりぱちくり茶色の目。白く艶やかぷるぷるな肌に、白い透けたワンピースが良く似合う可憐な少女。この子こそ、近所で絶世の美女と謳われる、あたしの大親友の黒田 夢。確かに昔から、嘘のように美しいゆめ。同じ女の私でも、たまに見惚れてしまう。細い肩、つるぷるの唇、笑った時うっすらと出るエクボとか。長く綺麗なまつ毛、ふわふわの胸にしなやかな身体。どこをとっても美しい。  だけど、この子のこの姿は原石じゃない。小さい頃から彼女は外見と内面を磨きあげる為に、血を吐くような努力をしてきたからこそ。こうして結果が出ているんだって、私は知っている。  ここは、あたしが一人暮らししている渋谷のとあるマンションの9階。906号室。
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