23人が本棚に入れています
本棚に追加
このあたし、神谷 叶(かみや かな)の部屋のリビングの黒いソファーにうつぶせになり、その細く華奢な生足をバタつかせ。新聞を読み、ゆめは眉間にシワを寄せて口を尖らせ。いつものように毒を吐いていた――あ、いや。さっきからずっと、ブツブツと文句を言っている。
「ゆめ、なに? 殺人鬼かなんかの記事でも載ってた?」
今日の朝食はシンプルに、ゆめの好きなプレミアムハニーメイプルたっぷり。バターも乗せたフレンチトーストと、カフェオレと、あと祖父母の家から送られてきた新鮮なトマト。えっと、フォークとマヨネーズだけでいっかな。うわわっナイフナイフ! あ、あと砂糖砂糖。よしっ、オッケー、かな。新しいランチョンマットもグー。ゆめは黄色。あたしは朱色。テーブルフラワーには一輪のダリア。よし、さあ食べよう。
「ノラとか飼い犬とかが次々に通り魔に虐殺だって」
新聞をテーブルに置き、嫌味混じりでふてくされた表情のゆめは、自分の椅子に座る。
両手を顔の前でパンと合わせ、いただきますと言いトマトをフォークでさして口に放り込むゆめ。
ゆめは昔からもっぱらの動物大好きっ子だ。あたしも動物大好きだけど、中でも犬が特に好き。かなり可愛いと思う。チワワとかやばい。犬を飼えばランニングももっと楽しくなるかな。
このマンション、防音設備完璧だし。警備員も沢山居るし。ペットOKだから何か飼いたいんだよね。彼氏も居ないし一人の夜とか結構寂しい。親は海外にいるから、日本で仕事している私は簡単には会えない。高校までは近所に住む親戚の家に居たのだけれど、高校を出てモデルの仕事を始めてからはずっと一人暮らししている。
親と言えば、ゆめには両親が居ない。小さい頃に近所の公園に捨てられていた所を、ゆめが育った施設の偉い方が拾って下さったらしいけど。
とんでもない話だと思う。自分の子供を捨てるなんて考えられない。育てられないんなら生むなとも思うけど、ゆめの本当の親がもし流産だかなんだかとかって、ゆめをおろしてしまっていたらなんて事は考えたくない。
ゆめを生んでくれた事だけは感謝してる。でも、やっぱ許せない。無責任な人間。ありえない。
最初のコメントを投稿しよう!