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「うーん……ヒロインって柄じゃないけど、まあ貰った役がどんなんでも、一生懸命やるわよ」
「うんっ。頑張ってねっ! 絶対見に行くねー」
この時は、何も知らなかった。むしろ誤解してたんだと思う。あの男の事。
それに、ゆめの事情も。全く気付いていなかった。いつも側に居たのに。
「あ、そうだ。ねえゆめ」
「うん?」
「本当は誰に渡すつもりだったの? あのチョコレートケーキ」
あたまのなかで、激しい音楽が鳴り響く。
場所はかわり。
ここはゆめとその血の繋がらない家族五人が暮らす、渋谷のとあるマンションの九階の一室。
「やっぱさ間宮、カナとヨリ戻せば?」
「そーだそーだ。お前ずっと誤解したまんまじゃ勿体ないよ」
「……は?」
黒いスーツに青いネクタイをした短い金髪のツリ目の青年が、そう提案し。
その青年に賛同した灰色のスーツ姿に緑色のチェックのネクタイをした茶髪で背の低い少年が、それに賛同する。
二人とも、黒い鞄を背負って淡々とその言葉をとある男に投げ掛けた。
その男はジャージに黒いTシャツ姿で、一人で大きな長机の端に座り。牛乳をたっぷりと皿に注いだ玄米フレークを食べようとスプーンで口に運んでいる途中であった。二人にそう言われ、牛乳をぽたーっと皿の上に垂らす彼。黒ブチ眼鏡と、真っ黒の短髪と、黒い瞳。目鼻立ちの整った、真面目そうな青年。この人物こそ、元モデルでこの家の良心的存在。間宮 慧也(まみや けいや)である。そして、カナが心底愛する男だ。
「カナも可哀想だよね。間宮に良いように使われてさ」と、背の低い茶髪の少年が再びそんな感じで間宮を責めた。この十八歳くらいに見える少年は、妃 はじめ(きさき はじめ)。
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