繰り返される日々

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 真っ白で味気ない壁。カーテンや窓の桟、ベッドの脚にすら傷一つない。ここは整いすぎていて気持ち悪い。少し身を乗り出して窓に頬をくっつけると、けっこう低いところで大勢の人の行き交っているのが見える。スーツを肩で着こなすサラリーマンもいれば、手押し車に歩かされているおばあちゃんもいる。みんな進む速さはバラバラだ。でも、気付いている人は誰もいない。こんなにじーっと見つめているのに。外の世界には苛立ちや辟易といった人間の思念みたいなものが漂っているけど、ここには何もない。空気が澄んでいる、というのとはちょっと違う。病室そのものが人の感情を根こそぎはぎとっているような、そんな不快感。 「私は、ここにいるよー」  思い切りダルさを込めてぼそっとささやく。当然、誰もこちらを向いてはくれない。立ち止まることもない。  ノックもなく不意に引き戸が開いた。窓に頭を預けたまま首を動かすと、母と目が合った。 「真弓! あんた起きてたの」  とたんに私は絶対的な安心感に包まれた。お母さんがそこにいる、ただそれだけのことで。やだなあ中学三年生にもなって。ところがその安らぎをかみ締める間もなく、母の後ろからゾロゾロと白衣の人間たちが入ってきた。と思ったら医者とナースのふたりだけだった。 「おお、お目覚めですか。どれ、失礼」  そう言うと三十代ぐらいの医者は私の下まぶたを引っ張り、私の手首に指をあて、さらに首からぶら下げたものを持って私の患者衣に手をかけたところでナースに小突かれた。ちなみに私の腕に点滴の管などはついていない。 「先生、そこまでする必要ないでしょ」  呆れ顔の彼女はとても若そうに見えた。おそらく二十二、三歳といったところだろう。いやそれよりも、今、そこまでする必要はないって言った? 「あ、そうか。悪い悪い」  おいおい、大丈夫なのかこの先生。別に医者に裸を見られてもなんとも思わないけど、そんなやりとりされたらちょっと恥ずかしくなってくるじゃない。
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