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「うん、どうやら問題ないですね。すまないけど私たちは別の患者さんのところに行かなきゃならないんで、詳しい話はお母さんから聞いてください」
「え? あの」
中途半端な敬語まじりにまくし立てたかと思うと、先生はさっさと部屋を出ていってしまった。ぞんざいな扱いに思わず口が半開きになり、そんな私を見てナースは吹き出した。ついでにパイプ椅子に座っている母も笑っていた。なんだよみんなして。さっきまでのセンチメンタルな私はどこへやら。
「ごめんごめん。キョトンとしててかわいかったから。あと先生はあれでも真弓ちゃんのこと・・・・・・そうそう、今の人はあなたの担当医で、田中先生っていうの。よろしくね」
あのおじさん、田中っていうんだ。ふうん、面白くない。
「はい、わかりました。それで、あなたは?」
「あたしは朝倉巴。トモちゃんって呼んでねっ」
彼女はじゃれつくような声を発しながら、胸元の名札を引きちぎらんばかりに突き出した。このタイプのわざとらしさは初めから男性をどうこうしようというものではないため嫌いではない。しかしだ。
「あのー、トモちゃんはいくらか(年齢差的に)抵抗が、いや失礼にあたるんで」
「え~? そんなの気にしなくていいのに」
「トモ姉ちゃんって呼んでもいいですか」
瞬間、白衣の天使はキョンシーみたいなポーズになった。
「いい、それオッケー! あは、そうかぁ、トモ姉ちゃんか。あ! あと敬語は禁止ね。あたしとはタメ語で話すこと。いい?」
「は、はい。・・・・・・じゃなくて、うん」
そんなに顔を近づけられたら逆らえるわけありません。
「よし、じゃあそろそろ行かなきゃ。先生をひとりにすると何やらかすかわかんないし。また後でね、真弓ちゃん」
「うん。バイバイ、トモ姉ちゃん」
ああ。私ってばなんて順応性が高いのかしら。なんて得意気になっていると、横にいる母まで「毎日お疲れさま、トモちゃん」と手を振った。あんたもかい。一体いつの間にそんな仲に。そういえば、詳しいことは母から聞けとのことだった。
「楽しいコでしょ? 田中先生もとってもいい人なんだから」
ナイロン袋からリンゴを一個取り出し、果物ナイフで巧みに皮をむき始める。その手さばきは私など遠く及ばない。
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